なみのダンスとMR①

昨年から関わらせてもらっているArt for Wellbeingプロジェクトで再び奈良のたんぽぽの家へ。

前にも書いたように、これは障害者のアート活動をテクノロジーでサポートするための取り組みではない。表現とケアとテクノロジーがお互いに作用しあうことで、新しい表現、新しいケア、新しいテクノロジーが生まれる可能性を探る共同研究のような取り組みだと思っている。どこに向かうのかわからないところから、表現とケアとテクノロジー、それぞれが持っている可能性を持ち寄って、感じた小さな気づきをキャッチボールしながら育てていく感じがとても面白く、今年も継続して参加させてもらっている。

昨年、たんぽぽの家の皆さんとジャワ舞踏家の佐久間新さんが取り組んできた「かげのダンス」のパフォーマンスを見せてもらったことがきっかけになって出来たが「CAST かげのダンスとVR」だった。

今年は、それを振り返りながらどう次に繋げていくかを話し合うところから始め、実験やディスカッションを重ねて辿り着いたのが「WAVE なみのダンスとMR」である。

テクノロジー側のアップデートとしては、Meta Quest3が発売されて、(完全に現実と切り離された別の世界に入る)いわゆるVRではなく、(ゴーグルをつけても周りが見えていて現実世界に演出やコンテンツを重ね合わせる)MR=Mixed Realityが出来るようになった。「MRを使って何が出来るか」というのがテクノロジー側から持ち寄った新しい可能性の種だ。

また、ハンドトラッキングの精度も上がったので昨年使ったコントローラーも使わないで済むようにもなった。

そこでまず、ゴーグルを被ると今いる部屋の中でキューブが宙に浮いていて、手で掴んで投げられるようなものを作って試してもらった。

面白がってもらえたが、あるたんぽぽメンバーの方から、サッカーみたいにゲームやスポーツにしたら面白いというコメントがあって、なるほどと思いつつ、これはちょっと違うかもしれないと思った。

ゲームにはルールやゴールがあり、上手く出来るとか出来ないとか、成功と失敗、勝ち負けが生まれる。そこがゲームの持つ可能性で面白いところだが、今回やりたいのはそこではなく、表現とケアとテクノロジーの可能性を探ること。新しいテクノロジーが新しい表現を生むような関係、表現者として表現したくなる、踊り手として踊りたくなる、といったところを目指したい。その感覚は佐久間さんとも一致していた。

もう一つ、長年いろんな場面でコラボレーションさせてもらっていて昨年もサウンドデザインで参加してもらった松井敬治さんに、今年はこうした振り返りやディスカッションから参加してもらった。最終的に作り上げるものが音楽になる、というのも今年目指したいところだ。

それからしばらくして、佐久間さんから今年は「水」をテーマに出来ないかという提案があった。佐久間さんがたんぽぽの家と長年続けられてきた取り組みでも使われてきた「水」は、昨年見せてもらった時にも、大きなたらいに水が注がれるといった舞台演出だけでなく、半分ほど水が入ったペットボトルを手に持って中の水の揺らぎを感じながら踊るだけでも踊りが変わるといったように、ダンスパフォーマンスの触媒として効果的に使われていた。「水」というのがダンスの側からである。

踊り手の側から持ち寄られた可能性の種としての「水」をMRにどう取り入れてどう表現できるか。それが踊りたくなるものになり、どんな音楽になるか。自分では思いもしなかった要素が持ち込まれることはチャレンジでもあるが、それこそがコラボレーションの醍醐味でもある。

つづく