未来のヴンダーカンマー

3月後半は久しぶりにブログを書く暇がない忙しさで土日祝日も仕事をしていたので、月末から数日休みを取って家族旅行へ。行き先は高校受験を無事に乗り切った娘のリクエストで決めつつ、その途中に前から行きたかった豊田市美術館へ立ち寄る。

ちょうど今は、「未完の始まり:未来のヴンダーカンマー」という企画展が開催されている。

絵画や彫刻に加え、動物の剥製や植物標本、地図や天球儀、東洋の陶磁器など、世界中からあらゆる美しいもの、珍しいものが集められた「ヴンダーカンマー(驚異の部屋)」。15世紀のヨーロッパで始まったこの部屋は、美術館や博物館の原型とされています。それは、見知らぬ広大な世界を覗き見る、小さいながらも豊かな空想を刺激する展示室でした。しかし、大航海時代の始まりとともに形成されたヴンダーカンマーには、集める側と集められる側の不均衡や異文化に対する好奇のまなざしも潜んでいました。

グローバル化が進み、加速度的に世界が均質化していくなかで、今改めて文化や伝統とはなにか、また他文化や他民族とどう出会うかが問われています。かつて「博物館行き」は物の終焉を意味する言葉でしたが、5人の作家たちは、歴史や資料を調査・収集し、現代のテクノロジーを交えながら、時を超えた事物の編み直しを試みます。美術館の隣に新しくできる博物館の開館にむけて開催する本展では、文化表象の実践の場としてのミュージアムの未来の可能性を探ります。

中でも気になっていたのは、田村友一郎さんの作品。実は以前僕が参加した21_21 DESIGN SIGHTの「”これも自分と認めざるをえない”展」の記録映像を撮っていただいたりといった縁があったりするのだが、いまや国内外で映像インスタレーション作品を手がけられ活躍されているアーティストである。

今回の作品タイトルは、チタンの元素記号Tiとラテン語で骨を表すOSを組み合わせた「TiOS」。人間の身体と融合するチタンの骨(だから人工関節などに使われる)が、人間とテクノロジーの融合を象徴している。

ガラスの砂でできたバンカーにチタンのゴルフクラブ。フラッシュが明滅するたくさんのiPhoneでできたUFOのようなオブジェ。チタンでできた骨の一部。それらのX線写真。ゴルフのティーグランドの奥に映像が映し出される六角形の空間。

チタンの骨は、直立二足歩行を始めた最初期の猿人、ルーシーの骨の3Dデータから再現されたものだという。ルーシーという名は、たまたま研究者が発見時にビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」を聴いていたことから名付けられたらしく、映像ではAIで生成されたジョン・レノンが物語を語り、猿人ルーシーが今度はリュック・ベッソンの同名映画の超人的なヒロインになったりー。

未来人や宇宙人は人間の骨と一体化したチタンを骨の一部だと思うだろうか。いや、もしかしたらチタンで出来たゴルフクラブさえ骨だと思うかもしれない。チタン製の最新のiPhoneを握りしめた人間はどこまでが人間だろうか。チタン化された私(TiMe)は時間(time)を感じるだろうかー。

チタン、骨、ルーシー。一見関係なさそうなモノや概念を繋ぐ連想。言ってしまえば駄洒落やこじつけでもあるのだが、それらの関係性の中に本質らしき何かを見出してしまう。展覧会のテーマであるヴンダーカンマー(「博物館」のルーツ)も、偶然見つかり集められた過去の断片をインスタレーションによって繋ぎ合わせる空間であり、ルーシーのような偶然の発見が繋ぎ合わされた歴史の中にも、実はこんなこじつけや誤りがあるのかもしれないー。

田村さんの作品は、考え抜かれ、細部までこだわり抜かれていると同時に、飄々としていて、シニカルで、ユーモアがある。今回も、チタン製の骨やiPhoneやゴルフクラブを産業用の非破壊検査施設でX線撮影したり、最初期の猿人ルーシーをイミテーションするのにミラクルひかるにオファーしていたり、宇宙船の大気圏突入から繋がる水切りの映像を撮るのに水切りチャンピオンを呼んだり、生成AIが作ったようなCGも豊田カントリー倶楽部で撮影されたドローン映像を元に作られていたり、、なんというか、真顔でやり過ぎている感じのこだわりと、それがまた笑ってはいけないような空気のある美術館に緊張感高くインスタレーションされているところにおかしみがあって面白い。

他のアーティストの作品もそれぞれ魅かれるものがあったが、家族旅行の合間の限られた時間だったので目に焼き付けつつ、改めて図録もじっくり読んでみることにしよう。