わかるとつくる

前回からの続き。そのワークショップから2年後の2017年、「情報環世界」というテーマで研究会をやるという企画に誘ってもらった。初台にあるICCの企画として、渡邊淳司さん、ドミニク・チェンさん、伊藤亜紗さん、塚田有那さんとわたし、5人のコアメンバーがさらに数人ずつに声をかけ20人くらいのメンバーで定期的にICCに集まった。各コアメンバー5人がテーマを持ち寄って、レクチャーとワークショップをやる10回シリーズで、正直最初はこの取り組みがどこに向かうのかよくわからないままスタートした感もあったが、ICCでのレクチャーやワークショップのあとにオペラシティ地下のHUBで毎回飲みながら話す時間も含めて、回を追うごとに集まるのが楽しみになっていく熱量のある会だった。

情報環世界―身体とAIの間であそぶガイドブック』は、この研究会の成果をまとめた一冊だ。単に複数の著者の文章を集めたアンソロジーではなく、各章の著者が他の章にコメントを入れたりと、インタラクティブに進められた研究会のライブ感を感じてもらう工夫も盛り込まれている。編集したのは昨年末に急逝された塚田有那さん。難しそうなテーマを、巻頭のひらのりょうさんのまんがや佐藤亜沙美さんの凝ったブックデザインも含めて、やわらかく、でもあくまで内容は深くまとめられた素晴らしい仕事だと思う。あれから5年以上が経って、ますますこの時に議論していたことは社会的にも大事なテーマになってきているように感じていて、ちょうど有那さんから「今こそ情報環世界再び!」とメッセージをもらったのが最後のメッセージになってしまったこともあって、今年は再始動させたいと思う。このブログもそれに向けた準備みたいな部分もある。

話を戻して、この研究会で僕が取り上げたテーマが「わかるとつくる」。ちょうど本が発売になるタイミングで書き始めたnoteにはこんなことを書いている。

この本の中で、わたしは第3章「“わかる”と“つくる”の情報環世界——環世界間移動能力と創造性」を担当した。日々デザインやビジネスやエンジニアリングに関わる立場から、これまで関心をもってきたテーマとして“わかる”と“つくる”の関係に注目し、そもそも“わかる”とはどういうことか、“わかる”ことと“つくる”ことがどう関係しているのか、人が物事を理解することの本質とクリエイティビティの根源について考えてみた。

ポストトゥルースと言われる時代、何が本当かわからない、簡単には白黒つけられない問題を正しく「理解」しないといけないとか、AIに負けない「創造性」を身につけないといけないなどと言われる昨今、そのためにどうすればいいかを考えるためには、まずは「理解」や「創造性」とは何なのかを考えたい、「環世界」という概念を通してそれを言語化してみたいと思ったのだ。

今回、貴重な機会を得て、多様な視点をもつ研究会メンバーと語り合う時間やたくさんの素晴らしい本との出会いを通じて、自分なりに考えを整理することができた。ただし、この本はそれこそ何か単純な「わかった!」と思える結論を導いているわけではなく、むしろ「わからなさ」に向き合うための多様な視点を提供している本だ。「わからない」で済ますことも思考停止だが、「わかった!」もまた思考停止なのだ。

前回書いたように、実は最初は「わかる」をテーマにしようと思っていたが、他のコアメンバーとテーマを持ち寄って話しているときに、デザインやエンジニアリングを仕事にしていることもあって「つくる」も一緒に考えたらどうかとアドバイスをもらった。確かに「わかる」だけを考えるのなら認知科学や脳科学の専門家の方が適任かもしれないし、振り返ると自分が「つくって」きたものも「わかる」をテーマにした仕事も多いことに気づいて、このふたつを両方考えてみることは自分らしい切り口かもしれないと思ったのだ。

そんなわけで、特別何もつけてなかったこのブログのタイトルも、やはり「わかるとつくる」にしてみようかと思う。また気が変わるかもしれないが。