重ね合わせ、もつれる世界

万博で開催されている「エンタングル・モーメント」展、1週間ではもったいない充実した内容だった。それぞれの展示も見応えがあったが、万博という場で1週間だからこそ、大学や研究機関の本物の装置があったり、第一線の研究者の方々が法被を着て説明員をしていて質問できたりするのもよかった。

何かと注目が集まる「量子」の世界。「粒子が同時に複数の状態に存在でき、観測すると一つに定まる」と説明されるが、その肝は「重ね合わせ(superposition)」と「量子もつれ(entanglement)」だろう。

重ね合わせ=同時に複数の可能性をもつ

量子もつれ=離れた粒子同士が一体のようにふるまう

どちらも「ちょっと何言ってるかわからない」非直感的な話であるだけでなく、そもそもそんなことが「なぜ起こるのか」はまだちゃんとわかっていない。でも、確かに起こることは実験でわかってきて、そうならもうその性質を利用してしまおうと量子コンピュータなどの応用が始まっている。そんな分野だ。

さて、万博から帰宅してたまたまテレビをつけると終戦80年企画のNスペで「シミュレーション」というドラマをやっていた。開戦前、総力戦研究所の緻密なシミュレーションの結果勝ち目がないと分かっていてなぜ日本は戦争に進んでいったのかを描いたドラマだ。

奇しくもその日はアラスカでトランプとプーチンが会談をしていた。なぜ戦争は始まってしまうのか、始まってしまった戦争はなぜなかなか終わらせられないか、80年前の話と今が重なる。

ドラマも見る価値あると思ったが、テレ東豊島晋作さんのYoutube「現時点での日本“最後の戦争”はなぜ評価が割れるのか?~辻田真佐憲と語る太平洋戦争と“中道”の歴史観とは」もよかった。辻田さんの右でも左でもない立ち位置に共感する。右左どちらの見方も観測の仕方による。そして、組織を主語にせずあくまで人間一人一人を主語にする。だからこそ「なぜ」はより複雑にもつれ重なり合う。

何が正しいのか、複数の可能性が同時に存在している。思考停止せずにあらゆる可能性を保留しながら考える態度。SNSでは分断ばかりが可視化されるが、辻田さんのような中間思考、それ以外にもメタ思考、複眼思考、振り子の思考のように新しい潮流も感じるのは気のせいか。(SFでも最近はマルチバースみたいな話がよく出てきたりするのもその流れの一つ?)

これはもしかしたら量子の世界が現れたこととあいまって、人間の思考も量子的にアップデートされるパラダイムシフトの萌芽なのかもしれない、、?などと期待するのは楽観的すぎるだろうか。