たかが鍵、されど鍵

はじめに断っておくと、これはたぶん誰の役にも立たない話である。

家を建てる時に、玄関ドアを木製サッシの全面ガラスドアにすることにした。幸い森の中なので、玄関の前には木々があるだけ。外からの目を気にすることもないし、お店やカフェみたいな感じも悪くなく、暗くなりがちな玄関の土間が明るくなり、来客がドアを開ける前にわかるのも便利。玄関開けたら熊がいたなんてことも避けられる。(冗談じゃなく。)

いいことづくめと思ったが、1つだけ、そんな普通じゃない仕様のドアにしたこともあって、鍵も特殊なのだ。調べてみると、ユーロロックなどと呼ばれる方式(ヨーロッパの家やホテルに行ったことがある人はわかるかもしれないが、鍵が360度以上クルクル回るタイプ)の鍵で、タテかヨコか90°しか回らない日本の一般的なサムターンではない。

別にそれ自体は困らないと言えば困らないが、時代はスマートロック。東京で今まで使っていたスマートロックが使えない。ヨーロッパからユーロロックに対応したスマートロックを取り寄せることも考えたが、それはそれでゴツいものが多いし使い勝手も良くなさそう。

そこで施工前にメーカーからロック本体部分だけを事前に送ってもらい、市販のスマートロックを3Dプリンタでカスタム出来ないかと試行錯誤。調べたところ、SESAMIというスマートロックが360度回転に対応していて、アプリの出来も良さげ。

あとは3DプリンタでアダプタをつくればOK、と思ったがこれがなかなか厄介。ドアとの干渉を避けるために中心を微妙にずらしたり、物理鍵も使えないといけないので機構を工夫したり、もはや仕事(プロダクトの機構設計)みたいなことになりつつ、なんとか無事に動作するものができた。

これで解決、と思ったのだが実はまだ解決してなかった。しばらく使っているとたまに設定がずれてしまう時がある。どうやら素早く手で一回転させた時に、逆回りで一回転したと認識してしまうことがあるようだ。メーカーに問い合わせてみると仕様上対応が難しいらしく、ゆっくり回すしか解決策がないという。(ちなみにSESAMIは社長さんの製品発表Youtubeが面白く、問い合わせの対応も親身で応援したくなるメーカーさんである。)

さて、どうしたものか。いったんスマートロックを外してあーだこーだと対策を考えているうちに時は流れ、家族は物理鍵を使う生活に慣れてもはや何も言わなくなってきてしまった、、まずい、、

たかが鍵、されど鍵。負けられない闘いがそこにはある。いやない。ないけどデザインエンジニアとしてはやはりどうにかしたい、、

つづく。