林業芸術

御代田仲間のブックアーティスト太田泰友さんが山水郷チャンネルに登場するということでライブで拝見。ちょうど同じ時期に御代田移住を考えていたり、御代田でちょくちょく会ったりしているものの、じっくり話を聞いたことがなかったのでとても面白かった。

太田さんは、東京でインダストリアルアートの修士課程を修了したあとドイツに渡り、ドイツにおけるブックアートの最高学位マイスターシューラー号を日本人として初めて取得して帰国後OTAブックアートを設立。多数のミュージアムや図書館に作品が収蔵されていて世界的に活躍している人である。(移住仲間、ほんとにユニークで面白いことやってる人が多い。)

今回紹介されていた作品もどれも面白い。

「Die Forelle」は、シューベルトの詩『鱒』を題材とした作品。綴じられた竹簡が波打つ様子が水や川の中での鱒の動きを連想させ、中国で用いられてきた竹簡とドイツ語のタイポグラフィの組み合わせもユニークだ。

「Frucht I」は、薄くスライスしたレモンのグラフィックがそのスライスしたレモンと同じ厚さの紙に1ページずつ配置され、ページ側面に配置されたテキストの余白が中のレモンの形になっている。

ブックアートをやり始めたのは電子書籍の対極にある物質としての<本>を追求したいと思ったのがきっかけと言う太田さん。確かに、綴じるというフォーマットとそれをめくるという所作、文字を配置するタイポグラフィとそれを読むという行為など、物質としての本に関わる体験全体が作品を構成していてめちゃくちゃ面白い。

一般的にブックデザインはまず先にコンテンツとしての文章があり、それをどう本にして伝えるかというアプローチだが、ブックアートはまずコンセプトがあり、コンテンツもあくまでコンセプトを表現するための要素の一つというところも、メディアアート的なアプローチで興味深い。

さらに、ウィリアム・モリス『理想の書物』の一節

最も重要な「芸術」を問われたなら「美しい家」と答えよう、その次に重要なのは「美しい書物」と答えよう。

に応えるような、建築の一部になったような本や、家具のような本の作品もある。

そんな太田さんが御代田に移住して関わるようになったのが林業。実際に山に入って道を拓いたり木を伐採したりといった山の作業をしているうちに、森や木の奥深さに魅せられ、ついに最近、「林業芸術社」なるものを立ち上げたらしい。「美しい家」どころか「美しい森」からの芸術。福井まで通って自伐型林業を学び、御代田で協議会を立ち上げて、と本気である。この活動がこれからどんな風に展開していくのかとても楽しみだ。

今年は太田さんとは米づくりも一緒にやっていくことになりそうで、それについてはまた改めて書くことにしよう。