少し難しそうな本を読む時、最近はまず著者の話しているYoutubeの動画を見てみるようにしている。ずはりその本について語っている動画でなくても、その人の考え方や人となりがわかり、読む時もなんとなく著者のことを想像しながら読み進めることが出来るからだ。
宇野重規さんのことも、去年『保守とリベラル』『民主主義とは何か』といった本に興味を持って、どんな方だろうとゲンロンカフェでお話しされているのを見たら、内容もさることながらその柔らかい話ぶりがとても魅力的な方だった。
トクヴィルについても、元々こうした宇野さんの本や動画で知っていたのだが、今回の『実験の民主主義』は、編集者の若林恵さんが聞き手となって重ねられた対談をまとめた本になっている。
元WIRED編集長で、その後黒鳥社という出版社を立ち上げ、政治やカルチャーやテクノロジーなど幅広いテーマをユニークな視点で切り込んだ面白い本をいくつも出されている若林さんは、何度か(つい最近も)お会いしたりもしているが、常に今この人は何を考えているだろうと気になる人の1人である。イリイチやコンヴィヴィアリティのことも、最初に知ったのはのは確か若林さんの文章がきっかけだったように思う。
そんな訳で、この2人の組み合わせの本を東京駅の本屋で見かけて、これは読まない訳にはいかないと手に取ったが、期待通りのとても面白い本だった。
本書はまず、19世紀フランスの貴族だった政治思想家トクヴィルの印象的な言葉を引用しながら、トクヴィルが目の当たりにしたアメリカという新しい社会と、いま私たちが目の当たりにしているデジタル社会とを重ねながら話が展開していく。
新しい時代には、新しい政治学が必要である
新しく生まれたアメリカという国に民主主義がゼロから生まれていくさまは、まさに今デジタルテクノロジーによって民主主義のあり方がゼロから問われている状況と重なる。
もはや過去は未来を照らし出さず、精神は暗闇のなかを歩んでいる
新しい時代に変わろうとする時の先の見通せない状況も今と重なる。
アメリカで、自分はアメリカ以上のものを見た
トクヴィルは「民主主義の実験場」としてのアメリカに「これからの世界」の趨勢を見た。
諸条件の平等
トクヴィルが見たのは「平等化」の趨勢であり、これが民主主義の本質だと彼は考えた。
銃、印刷、郵便
「平等化」を促したのはこうしたテクノロジーだとトクヴィルは捉えた。特に「情報」を平等化した印刷と郵便は、パーソナルコンピュータとインターネットに重なる。アメリカ独立の立役者ベンジャミン・フランクリンが気象学者で印刷屋を経営していたことも今IT業界のリーダーが政治に影響を与えている状況に似ているし、平等化が混乱ももたらし、アンドリュー・ジャクソンというまるでトランプのような大統領が生まれたりもしている。
この「平等化」は人々の想像力を変容させ、それは不可逆な変化なのだと宇野さんは言う。人は誰もが平等であるということに気づくともう後戻り出来ないと。(召使いは自分の仕える人と自分は違うと考えていたし、貴族の夫人は着替える時召使いの前で裸になっても恥ずかしくなかったが、もうそんな状況には戻れない。)
そして、この平等化は決していいことだけでなく、同じであるはずと思うからこそ違いが気になるようにもなるし、拠り所が失われて孤独にもなる。
まだ第一章だが、今を読み解くヒントがトクヴィルの見たアメリカにあるという視点はとても興味深い。
つづく。