この連休は、山口情報芸術センター(YCAM)で行われた、フォーラム「Art for Well-being-表現とケアとテクノロジーのこれから」に登壇した。
今年はこれまでの取り組みを広げていくのがテーマということで、たんぽぽの家のある奈良を飛び出し、メディアアートの拠点であるYCAMで体験展示とフォーラム、ドキュメンタリー映画の上映が行われた。
ちなみに一緒に登壇したYCAMでアーティスティック・ディレクターをつとめる会田大也くんはIAMASの同期でもあり、2008年に彼が誘ってくれた「ミニマムインターフェイス展」でON THE FLYが生まれたこともあり、この場所で話ができるのは個人的にも感慨深いものがある。
2年前から関わってきたこのArt for Wellbeingプロジェクトについては、これまでにもこのブログで書いてきたので、このフォーラムで個人的に印象に残ったことを今日は書いておきたい。
たんぽぽの家にしてもYCAMにしても、今回の「表現とケアとテクノロジー」のようなあまり前例のないようなテーマの取り組みや、これまで美術館が扱ってこなかったようなメディアやテクノロジーを使った新しい取り組みを、プロジェクトとして立ち上げ、続けていくことが一番大変なことだと思う。面白そうな取り組み、というだけでは物事は始まらないのだ。
そのことに関して、たんぽぽの家の小林大祐さんが、このプロジェクトの文化庁事業としての正式名称は「心身機能の変化に向きあう文化芸術活動の継続支援と社会連携」なんですと仰ったことがまず印象的だった。
ウェブサイトにもあるように、このプロジェクトは、文化庁の「障害者等による文化芸術活動推進事業」として行われているもので、ウェブサイトには以下のような趣旨が書かれている。
筆を握れなくなる、体が思うように動かせなくなるなど心身の状態が変化したとしても、表現活動を継続したい人や、新たに創作に取り組みたい人、それらを支援したい人たちがいます。
これに対して、AIやIoTと呼ばれる人間の “知能” “身体” “社会的つながり” に関わる現代のテクノロジーが、障害のある人の生涯にわたる創作や表現に活用されている事例は多くありません。
そこで、障害のある人やその支援者が、さまざまな技術とともに創作や表現を生み出し、創造的な活動を継続または取り組める環境づくりを、文化庁の事業の1つとして推進しています。
文化庁の事業、つまり税金が使われる公共性のあるプロジェクトとして、当然だが、多くの人に共感されるようなビジョンやミッションを描くことが求められるのだ。
一方で、具体的に例えばAIやVRやNFTといった新しいテクノロジーを取り入れたプロジェクトをいきなり始めようとしても、それはプロジェクトの当事者にとってはもちろん、それを事業として採択する側の行政にとっても、ほんとうに何かできるのかの判断がなかなか難しい。そのためには、まずは勉強会やワークショップを開いたりすることで、小さな実績を地道に積み重ねていくことが大事だと仰っていたのにもとても共感した。
これは公共性のあるプロジェクトに限ったことではないだろう。意味や価値があると信じることを実現するためには、共感を得られる「大きなチャレンジ」を掲げることと、それが絵に描いた餅にならないために日々「小さなトライ」を積み重ねること、その両方が大事なのだ。
(余談だが、Youtubeでちょうどこんな動画が流れてきた。オチの「チャレンジ1年生」と「家庭教師のトライ」のニュアンスの違いが笑える。。)